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復元師を目指す方へ

復元師になりたいと、熱心に言われることが多くなりました。

復元師育成コースの基礎となる参加型納棺も、実はとても難しいです。何故って、マニュアルが無く、個々に対応しているからです。

参加型納棺を始めた理由は、何度かブログでもお伝えした通り、14年前の現場で、現場に到着した時に小学生の子と、幼稚園の年長さんの子が居て、お母さんを亡くしたことが理解できていないことを感じたことからのスタートです。

参加型のながれは進めたことがありませんでしたので、全部手探りでした。

当時の納棺は、何も話さずに粛々と納棺師が一人で行うことが主流だったのですが、私はその時、本当に私一人で納棺までしていいのだろうか、子どもたちはこの後、どう生きるのだろうかと突然悩み、考え抜いた結果、これまでのながれとは全く違うながれで進めるという、苦渋の選択でした。お母さんは、急死でした。

私は納棺に集まられた皆さんに提案をしました。子どもたちと納棺を進めたいと、相談しました。皆さん、賛成してくださいました。

亡くなられたお母さんの、お母さん(おばあちゃん)が子どもたちを支えてくれました。旦那さんも、途中から子どもたちの頑張りを見て、勇気を出して力を出してくれました。お寺さんも、全面協力してくださいました。途中、子どもたちは「お母さん、起きて!」と言って、大きな声で泣きました。その後、お母さんとムギュしました。子どもたちは、お母さんに手紙を書きました。

「お母さんのハンバーグは、もう食べられないけれど、お母さんは、ぼくが100さいになっても、200さいになっても、ずっと僕のお母さんだから。」という内容を含めた便箋4枚にわたる長い、長いお手紙でした。

納棺が終わり、お兄ちゃんが帰ろうとする私を追いかけて来ました。私のスーツの裾を引っ張っていました。帰るなということだと、すぐに分かりました。お兄ちゃんに声を掛けると、私自身が大泣きしそうで、無言で頭を撫でました。あの時それが、精一杯でした。

この子たちにとって、私のとった行動は良かったのか、悪かったのか、頭を撫でながら私はまだ悩んで考えていました。

玄関に、お友だちが数人来ていました。お兄ちゃんに、声を掛けていました。

「お前、母さんが死んじゃったの?可愛そうだな。」

子どもは、使う言葉がストレートですが、友人としての彼らの精一杯の、慰めの言葉だったんだと思います。どう答えるのかな、助け舟を出そうかなと思っていた時、お兄ちゃんが言いました。

「ぼくは、ちっとも可愛そうじゃないよ!だって、これからお母さんを応援しなくちゃならないんだから!忙しいよ!」

友だちは「じゃ、手伝うよ!」と言ってくれました。

このながれにして良かったんだな、きっとお母さんが望んだことなのかな。しっかり納棺を努めた彼らの姿は、亡き母がしっかり育てた立派な姿でした。そう思うと、胸がグッと熱くなりました。

色んなところで参加型という言葉だけが、今は一人歩きしています。沢山のご遺族と一緒に確認して整えた今の、参加型納棺と大きく価値観が違うので、違う参加型を聞くたびに悲しくなることが多くなりました。一人歩きしている参加型はご遺族を、参加させるという主張が強いからです。私たちが参加させていただいている、ご家族にとって二度と戻らない大切な時間に居させてもらっているという意味も、参加型納棺で商標登録を取った時に大切にしていたから、とても悲しいと感じています。

今月も、専門技術育成コースを多くの皆様が受講されました。

参加型の解釈を間違わないでくださいと、この話をした時、号泣している受講生がいました。

「似たような現場があったの?」

ポロポロと泣いていたので、さすがの私も聞いてみました。何回もうなづき、彼女は答えませんでした。そういう時は、無理しません。そっとしておくことにしました。

休憩時間に、彼女が言いました。

「私は、その子どもの立場でした。当時、小学生でした。笹原さんの話しを聞いて、私も笹原さんに納棺をしてもらいたかったと思いました。私の目の前で一度も触れることなく、父と母の、2人の、両親の納棺が終わってしまいました。私は、本当の参加型納棺がしたい。そう思って、講習を学ばせてもらっています。」

心のバランスのとれた子でしたので、両親を亡くしてから、小さいながらも色々と考え、きっと見守りの上手な方に、しっかり支えてられていたのでしょう。

私は、あの子たちにとって、余計なことをしたかもしれないと、実は今でも思っています。もっと気持ちを感じ取り、すり合わせて求める色んなことをしてあげられたのではないかと、ずっと沢山の後悔を抱えることで、私は彼らを一生忘れないでいたいと、思っているからです。後悔しないプロなんて、嘘だと思います。出会った以上、心が通えば、目の前の人は大切な人になる。大切な人に向けられる精一杯の気持ちが後悔なんだと、私は思います。(ただの自論です)

でも出会ったから、その人が居ることを存在を知り、故人の人生があったことを教えてもらえる。深い、深い時間です。出会わなければ、分からなかったことですから。

ですから、復元師は、遺体の復元をすればいいということではないと、私は思っています。故人がしっかり元に戻ってから(作らず戻す、その技術もとても大事)現場では、対面していただいてからの、遺された皆さんとのスタートがあるからです。そこからが、大事。だから、参加型なんです。復元師は、社会問題に直面します。社会の中で誰も知らないような沢山のこと、口外できないことにも、沢山関わります。しっかり抱え、そして一旦背負う。それは、ご遺体の復元中は、体から知り得ることが沢山あり、そういう意味で故人と一体ですから。そして関係者やご遺族と一緒に、急がず一つずつ、大切に悲嘆を昇華する。復元師育成コースは、そういうコースです。

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