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恐山という大自然に抱かれて

    南 直哉(じきさい)さんを存じ上げたのは、ご遺族に教えてもらった話がきっかけでした。

〜親より先に死亡した子どもは、それ自体が罪ということで、徳を積むために賽の河原で石を積み上げます。あと少しで積み上がる所で鬼が来て、せっかく積んだ石を崩してしまう。子が泣き叫んでも親は助けに来れず、ずっと目の前の三途の川を渡ることが出来ない。

 (賽の河原和讃の抜粋と、私の勝手な解釈ですので、詳しくは宗教者にお尋ねください。)

 子に会いたいと思い続けた母が、この和讃を知り、この話しの通りだと自分の子は永遠に苦しみ続けるのだろうかと日々思い悩む中、恐山へ子に会いたいと参ったそうです。けれど、心配のあまり胸が苦しく、ふと目に入った寺務所に飛び込み訪ねた時に、南院代さんにお会いして、話してもらった話しに救われたとのことでした。

 一生懸命生きた子どもに、そんなことをする鬼がいるだろうか。もしかしたら、石積みをしていて疲れている子どもに、「少し休んで、鬼ごっこでもしよう」と、遊んでくれているかもしれませんよ。

 南院代さんのこの話しは、子を亡くした親御さん方から、現場で多く聴かせてもらう話しです。現場でこの話しを知らない親御さんには、私が話します。「恐山に行ってみて。」と、加えて伝えます。

 恐山は、私も大好きな場所です。大昔に大自然が作り出した景観は、えもいわれぬ美しさです。その中に身を置くと、社会に生きる中で気が付かないうちに、がんじがらめになっていた全てのことから解き放たれた気持ちになります。

 本当は人の心は、こんなにゆったりなんだ。そう思える場所だからこそ、素直な自分と出会い、向き合える特別な場所なのだと思います。

 霊場として恐山は、昔から人々の大切な場所として守られて来ました。霊場であるからこそ、人の手が加えられず、恐山を大切に思う人々によって、あの景観が守られて来たとも言えると思います。

 だから、大切な人の死と自分の関係をつなぎ直せる場所なのだと思います。自分が何なのか、自分自身がそれを分からないとそのステップには進めないと思います。そうか!それがわかる場所、それが恐山。

 恐山にお寺があること、お坊さんが居てくれることは遺族にとってどれほど心強いことでしょう。

 南 直哉(じきさい)さんは、恐山の院代さん、僧侶です。

「笹原さんって、憧れている人って、会いたい人って、居るの?」

 そう聞かれた時、上記の話しを岩手日報のベテラン記者さんに話しました。

 私は会いたい人が2人、います。でも、絶対に無理。そう思っています。

 そのうちの一人、南院代さんには、沢山のご遺族がお会いしたいだろうから・・・。私なんかは、遠くから見ることが出来るなら、それで充分。南院代さんが存在してくれていて、発信される色んなことを院代さんのブログなどを拝見して知ることが出来れば、それだけで良い。憧れている人として断定するなら、私は南直哉(じきさい)さんですね。

「憧れている理由は?」記者さんに聞かれたとき、迷わず答えたこと。

1、昔、巫女だった私。だから、南院代さんの所作に心を奪われました。巫女だった時にこういう方に所作を指導してもらえたら、もっと上手に立ち振る舞えたのかなぁ?と、思いました。立ち振る舞いは、自分の心を現し、人の心も大切にしてますと表現できることだと私は今でも思っています。だから、院代さんの所作に心奪われました。

2、言葉がきれい。言葉の変換が、すごい。言葉の使い方が、すごい。正しく伝える文章の力とその中に、ドカンとハッとする生きる力をもらえる言葉が入っている。だからきっと、院代さんが話すことは全部、法話なんだろうなと思う。

 世の中の言葉は、言葉が足りなかったり、伝えたいことが自分で分からなかったり表現が出来ないから、人は言葉が荒くなり、行動も強すぎるのだと思います。

院代さんはきっと、自分の芯と・・・、いや何か分からないけれど、何かと真摯に向き合って生きてこられたのではないかと思う。

そういう人に、私もなりたい。という憧れ。


3、分かってる。遺族の気持ちの本当を、この方は分かっている。表面や上っ面で判断しない。何に苦しんで、何に辛くて、自分って何なのか。亡き人を思うとき、遺された人は誰もが通る通過点。だから、混乱している。遺族はそういうことを含めて毎日考えていることを、この方は、深い深い所ですごく考えてくれていて、すごく分かってくれている。院代さんの言葉は、それを表現している。遺族は宗教者を求めている。それを分かって、きちんと向き合ってくれる人だと思いました。

 そして、9月30日の岩手日報の対談の記事で、私の夢は叶えてもらえたのでした。

https://www.iwate-np.co.jp/article/category/look-for-you
(弊社のホームページ上でも、URLをご案内致しております。)

 お会いする前、眠れないことがないこの私が、緊張して数日眠れず。お会いした後、余韻どころか興奮が冷めず、未だ眠れず(笑)

〜反省1、
 お礼のお手紙も、毎日書いては失敗し、便箋を2つもダメにして、未だ完成せずこんなに日にちが経ってしまった。ダメダメな、私。あぁ、反省。

〜反省2、
 対談なのに、南院代さんに見とれすぎて記者さんに途中、「笹原さん・・・、んー、あのね、対談だからね。見惚れてないで対談してくださいね。」「はい、すいません。」軌道修正致しました。私、喜びの余りそう言われるまで、息止めてたかも(笑)やっぱり本物の院代さん、すごかった。そして、所作がきれいでした。


〜お会いして発見したこと
 南院代さんの真剣な表情と笑顔のギャップに、そこに居る全員が萌え(ハートを根こそぎ掴まれる)ました。

 
 恐山に行く度に、南院代さんのサイン入り「恐山」という本を売店で購入します。その後、それを必要とする人に出会ってしまうから、あげてしまいます。もう、二十冊以上あげているから、私、院代さんの恐山という本だけ、未だ最後まで読んだことがありません。いつか、最後まで読める日が来るといいなと、思っています。


 もう一人の会いたい人は、亡くなっているので会えません。私の心の中で、存在してくれている大切な子が居ます。そのことと向き合う時間を作りたくて、私はきっとこれからも恐山に通うと思います。

 賽の河原の鬼と、鬼ごっこをして笑顔で遊んでくれていますように。

 恐山という大自然に抱かれて、安心できる場で過ごしてくれていますように。

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